東京高等裁判所 昭和30年(ナ)25号 判決 1958年5月28日
原告 土屋喜代治 外一名
被告 茨城県選挙管理委員会
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの連帯負担とする。
事実
原告訴訟代理人は「昭和三十年四月三十日執行の土浦市長並に同市議会議員選挙の効力に関する訴願について被告が昭和三十年九月七日なした訴願棄却の裁決はこれを取り消す。右選挙は無効とする。訴訟費用は被告の負担とする」旨の判決を求め、被告指定代理人は主文と同旨の判決を求めた。
(原告らの請求原因および被告の主張にたいする答弁)
一、原告らは茨城県土浦市において昭和三十年四月三十日施行の土浦市長および同市議会議員選挙で同市における選挙有権者である。
二、右選挙において訴外土浦市選挙管理委員会(以下「市選管」という)が使用したつぎの三種の補充選挙人名簿には、つぎにしるすとおり、公職選挙法第二六条および第二七条の規定に違反する事実があつて無効である。
(1) 市選管が、昭和三十年二月二十七日施行の衆議院議員選挙にさいし基本選挙人名簿とあわせ使用した補尤選挙人名簿(甲第一号証の一ないし二五、以下「第一補充名簿」という。)この名簿は市選管が昭和三十二年二月八日調製したと称するもので登録人員千四百八十八名が記載されている。右名簿の調製について市選管は被告から、調製現在期日昭和三十年二月八日、登録申請期間同年二月九日より同月十三日まで、調製期間同年二月九日より同月十六日まで、縦覧期間同年二月十七日より同月二十三日まで、異議の決定期間同年二月十七日より同月二十三日まで、確定期間同年二月二十四日との指示を受けたのであるから、市選管は適法に委員会を開いて補充名簿を調製すべきであるのに、全然委員会を開かず市選管書記が勝手に市選管の名で作成したもので無効である。しかるに市選管は本件の選挙にこの無効の第一補充名簿を使用しその登録人員千四百八十八名中九百五十一名の投票をなさしめた。
(2) 市選管が、昭和三十年四月二十三日施行の茨城県知事および同県議会議員選挙にさいし、基本選挙人名簿、第一補充名簿とあわせ使用した補充選挙人名簿(甲第二号証の一ないし二五以下「第二補充名簿」という。)この名簿は市選管が昭和三十年四月十日調製したと称するもので登録人員九百四十二名が記載せられている。右調製について市選管は、被告から調製現在期日昭和三十年四月十日、登録申請期間同年四月十一日より同月十三日まで、調製期間同年四月十一日より同月十五日まで、縦覧期間同年四月十六日より同月十八日まで、異議の決定期間同年四月十六日より同月二十日まで、確定期間同年四月二十一日との指示を受けたのであるから市選管は適法に委員会を開いて補充名簿を調製すべきであるのに、全然委員会を開かず、市選管書記が勝手に市選管の名で作成したもので無効である。しかるに市選管は本件の選挙にこの無効の第二補充名簿を使用し、その登録人員九百四十二名中七百五十九名の投票をなさしめた。
(3) 市選管が、昭和三十年四月三十日施行の本件土浦市長および同市議会議員選挙にさいし、基本選挙人名簿、第一補充名簿、第二補充名簿とあわせ使用した補充選挙人名簿(甲第四号証の一ないし二二、以下「第三補充名簿」という。)この名簿は昭和三十年四月十日市選管の委員会を開いて、調製現在期日昭和三十年四月二十一日、登録申請期間同年四月二十二日から同月二十三日、調製期間同年四月二十二日から同月二十五日まで、縦覧期間同年四月二十六日異議の決定期間同年四月二十六日から同月二十七日まで、確定期間同年四月二十八日と議決した。しかるに名簿作成者である市選管は、右議決した登録申請期間経過後も同名簿の登録申請を受理し、その全部に四月二十三日の受附印を押し期間内に登録申請があつたようにして同名簿に虚偽の登録をした。その数は百二十名に達し、右は全部登録申請書に日附の記載なく、内四名は申請人の押印なく、八名は拇印が押されている。また登録人員中名越とみ子ほか十五名の者は有権者として必要な住所の要件をみたしていない者で、かような不備な申請書を受理して名簿に選挙人として登載したものである。第三補充名簿は登録人員二百三十四名であるがそのうち前記百二十名は名簿調製手続に違法があり、第三補充名簿は全体として無効のものである。この補充人名簿によつて投票した数は百九十四名である。
三、要するに、市選管は本件選挙にあたつて右第一ないし第三の無効な補充選挙人名簿を使用して選挙を執行したもので、その投票の中には右補充名簿による無効投票総数千九百四票が含まれているものであつて、これは選挙の結果(甲第十二号証記載)に異動をおよぼすおそれあるものというべく、本件市長ならびに市議会議員の選挙は無効である。
四、原告らは本件選挙の無効を主張し、昭和三十年五月十二日市選管に異議の申立をしたところ、市選管は同年六月一日附で異議申立を棄却したので、さらに同年六月九日被告に訴願の申立をしたのであるが、被告は同年九月七日附で右訴願を棄却する旨の裁決をし、右裁決書は同月十一日原告らに送達された。原告らはこれに不服であるから本訴請求におよんだ。
被告の主張事実にたいし、前示(1)の衆議院議員の総選挙ならびに(2)の茨城県知事および同県議会議員の選挙に関する事務を管理する権限が被告にあつて、したがつて、第一、第二の補充名簿の調製、縦覧、異議の決定および確定に関する期日、期間ならびに申請の期間などは被告が定め、あらかじめ公告し、市選管がこれを守るべきものであることは認めるけれども、右各補充選挙人名簿の調製者は土浦市選挙管理委員会であり、同委員会は右名簿調製についての同委員会を招集し議決を経なければならぬのである。これをなさずして市選管書記がほしいままに作成した第一、第二補充名簿は無効である。
(被告の答弁)
請求原因一の事実は認める。同二の前文のうち市選管が昭和三十年四月三十日に執行した土浦市長選挙および同市議会議員一般選挙において原告主張の三種の補充選挙人名簿を使用したことは認めるが右各名簿が無効であるとの点は否認する。
同二の(1)のうち昭和三十年二月二十七日に執行された衆議院議員選挙にさいし、市選管が第一補充名簿を基本選挙人名簿とあわせ使用したこと、第一補充名簿は市選管が昭和三十年二月八日現在で調製したものであること、市選管が本件土浦市長選挙および同市議会議員一般選挙においても第一補充名簿を使用したこと、右補充名簿の登録人員数は千四百八十八名、うち本件選挙において投票した者の数は九百五十一名であることはこれを認めるがその余の事実は否認する。公職選挙法第二七条第三項、第五条によると、補充選挙人名簿の調製に関する諸期日、期間などを定めこれを予め告示する職務権限を有するものは、右衆議院議員の選挙および後記(2)の知事、県議会議員の選挙においては被告であり、後記(3)の土浦市長、同市議会議員の選挙においては市選挙管理委員会であることが法律上明白である。したがつて前記衆議院議員の選挙における第一補充名簿の調製に関する諸期日、期間などについては、法定の手続にしたがつて被告が決定し、原告主張のとおり告示しているのであつて(乙第一号証)、市選管がこれらの決定や告示に関与することは法律上許されぬところである。ただ市選管は前記被告の決定した諸期日、期間などにしたがつて実際に第一補充名簿の調製、縦覧の事務を行つたにすぎない。しかもこの限度において市選管が第一補充名簿を調製することについては昭和三十年二月一日に市選管委員会を開いて議決している。右会議録(甲第五号証)にはたんに名簿の縦覧場所について議決したことだけしか記載されていないが、右縦覧場所につき議決した以上その前提たる第一補充名簿を調製することにつき付議したことは当然であり、このことを会議録に欠いているからといつて第一補充名簿を市選管書記がほしいままに作成した無効のものであるということはできない。右補充名簿は公職選挙法第二六条の規定によつて市選管が適法に調製したものである。
同二の(2)のうち昭和三十年四月二十三日に執行された茨城県知事および同県議会議員の選挙にさいし、市選管が基本選挙人名簿および第一補充名簿とあわせ第二補充名簿を使用したこと、第二補充名簿は市選管が昭和三十年四月十日現在で調製したものであること、市選管は本件土浦市長および同市会議員選挙においても第二補充名簿を使用したこと、右補充名簿の登録人員数は九百四十二名で本件選挙における投票者の数は七百五十九名であることは認めるがその余の事実は否認する。市選管は右第二補充名簿を調製するについては昭和三十年三月二十九日名簿調製に関する市選管の委員会を開いてこれを付議、議決し、公職選挙法第二十六条の規定にしたがつて適法にこれを調製したものである。その有効なことについての主張は前記第一補充名簿に関し述べたところと同一であるからこれを引用する。
同二の(3)のうち昭和三十年四月三十日執行の本件土浦市長および同市議会議員一般選挙にさいし、市選管は基本選挙人名簿ならびに第一、第二補充名簿とあわせ第三補充名簿を使用したこと、第三補充名簿の調製にあたつて、昭和三十年四月十日市選管委員会を開いて公職選挙法第二六条第一項および同法第二七条第三項の規定によつて原告主張のような決議をしたこと(乙第三号証)、その議決による登録申請期間は同年四月二十二日から同月二十三日までであつたこと、第三補充名簿の登録申請書全部に四月二十三日の受附印を押してこれらを同名簿に登録したことおよび同申請書のうち日附の記載のないものが九十七名、申請者の押印のないものが四名、拇印の押されているものが十三名あること、右名簿の登録人員は二百三十四名でそのうち本件選挙において投票した者の数は百九十四名であることは認めるが、その余の事実は否認する。
訴願における被告の審理にさいし、大久保初子ほか四十三名の者が前示登録申請期間経過後に申請書を提出したように供述したことは相違ないがそれは記憶の誤りにもとずくもので信用はできない。
第三補充名簿調製にさいしては、有権者の登録申請書は土浦市役所のほかに各支所において提出せられているが、右支所は地方自治法第一五五条の規定により設けられたもので、同支所の職員は同法第一七二条の規定による土浦市長の補助機関としての職員であり、また同法第一八〇条の三および公職選挙法第二七三条の規定の適用を受け得る職員である。しかして市選管は右法条の規定によつて同市長の承認を得て同支所の特定の職員に辞令を交付し、補充選挙人名簿の登録資格者の調査および登録申請書の受理の事務を委嘱したものである。したがつて右委嘱を受けた支所の職員において登録申請期間中に支所に提出せられた登録申請書を受理した場合これは直ちに市選管においてこれを受理したものとして法律上取りあつかうべきものである。それゆえに本件選挙において土浦市役所の支所において提出期限たる昭和三十年四月二十三日において適法に受理せられた申請書中たとえその翌日に市選管に送付せられたものがあつてもそれは期限内に提出せられた登録申請として有効である。すなわち第三補充名簿は有効なもので、万一そのうちに多少の違法登録者があつて、その者によつて投票せられたとしても、右投票は公職選挙法第二〇九条の二の規定の適用をうけるべきものに過ぎず、選挙全体の効力に影響をおよぼすものではない。
同三の事実は争う。
同四の事実は認める。
(証拠省略)
理由
茨城県土浦市において昭和三十年四月三十日土浦市長および同市議会議員選挙が施行せられ原告らはその有権者であつたこと、右選挙にさいし、基本選挙人名簿のほかに補充選挙人名簿として原告主張の第一ないし第三補充名簿が使用せられたこと、原告が昭和三十年五月十二日右選挙の無効を主張して異議の申立をしたところ、市選管において同年六月一日右異議の申立を棄却したので同年六月九日被告にあて訴願の申立をしたが、同年九月七日訴願を棄却する旨の裁決がなされ右裁決書が同月十一日原告らに送達せられたことはいずれも当事者間に争ないところである。
原告らは、右第一ないし第三補充名簿はいずれもその調製手続に違法があつて無効であると主張するのでつぎに判断する。
まず第一、第二各補充名簿について、原告は、右各名簿が市選管によつて作成せられたものではなく市選管書記が市選管の名を冒し勝手に作成したものであると主張するけれどもこれを認めるにたる証拠はない。かえつて、成立に争ない甲第一、二号証の各一ないし二五、甲第五号証、乙第一、二号証に証人柿沼竜吉、羽成敏男、谷田部豊之助(第一回)、斎藤浩の各証言を合せ考えると、昭和三十年二月二十七日施行の衆議院議員選挙および同年四月二十三日施行の茨城県知事ならびに同県議会議員選挙における選挙事務管理者はいずれも法律上被告であり、したがつて市選管は、被告の決定公告した各補充選挙人名簿の調製、縦覧、異議の決定および確定に関する期日および期間ならびに登録申請の期間および方法等の定めにもとずいて本件第一、第二補充名簿を作成したこと、しかして右第一補充名簿作成にあたつては昭和三十年二月一日市選管委員会を開き、右作成に関する必要事項すべてを議決し、公職選挙法施行規則所定の方式にしたがい作成、これに市選管委員長の氏名の記載押印がなされたこと、また第二補充名簿の作成にあたつては、昭和三十年三月二十九日市選管委員会が開かれ第一補充名簿の場合と同様の経路で作成せられたことをそれぞれ認めることができる。すなわち第一、第二補充名簿作成の手続にはなんら原告主張のような違法の点あるを見ず、これらの名簿を用いて選挙を施行したことを選挙規定に違反したものということはできない。
そこで進んで第三補充名簿について判断するに、同名簿が使用せられた昭和三十年四月三十日の土浦市長、同市議会議員選挙における選挙事務管理者は土浦市選挙管理委員会であるところ、同市選管は昭和三十年四月十日委員会を開き、第三補充名簿作成につき、原告主張のとおり、調製現在期日、登録申請期間、調製期間、縦覧期間、異議の決定期間、確定期日につき議決しこれを告示したことは当事者間に争いないところである。原告は第三補充名簿に有権者として登録せられた人員二百三十四名中百二十名は登録申請期間たる昭和三十年四月二十二日から同月二十三日までの間に申請せられたものでなく、期間経過後において申請せられたにかかわらず市選管はこれを無視して申請を受理し登録したと主張するけれども、この点の証拠として提出された甲第六号証の一ないし四十六の各記載は証人和田弘、大森建哉、秋山とみ子、大久保安子、大塚清その他の証言に照すと、その中あるものは作成名義者はすこしもこれを知らず家族のものが第三者から云われるままに押印したり、あるものは内容の記載に誤りがあつたりして全体としてにわかに信用しがたく、原告主張のような多数の者について登録申請期間経過後の申請が受理せられた事実を認め得べき証拠はない。
そればかりでなく、証人斎藤浩の証言によつて真正に成立したと認められる乙第七号証の一ないし二十一、成立に争ない乙第八号証に右斎藤証人の証言、証人谷田部豊之助(第二回)、海老原あき、北村定則の各証言をあわせ考えると、第三補充名簿作成について市選管は土浦市長の承認を得て同市支所の特定の職員に市選管の嘱託としてこれに同名簿登録の資格者の調査および登録申請書受理の事務を委嘱したこと、第三補充名簿に登録せられた者の中には登録申請書を所定期間内に、市選管に直接提出した者のほか多数の者が右支所の職員に提出し、それら申請書が右支所の職員を通じて市選管に送付せられた事実を認めることができる。しかして被告主張のように支所は地方自治法第一五五条の規定により設けられたものであり、支所の職員は同法第一七二条により土浦市長の補助機関としての職員であり、また同法第一八〇条の三、公職選挙法第二七三条の規定によりその委嘱された選挙事務を行うものであるから登録申請期間内に右支所に選挙人としての登録申請がなされ、右選挙事務を委嘱せられた職員によつて受理せられた以上法律上適法な申請があつたものと解すべく、右申請書が期間経過後支所から市選管に送付せられたとしても、それを所定期間経過後の違法な申請ということはできない(ただし支所において受理せられたものにつき直ちに受理印を押すことなく市選管が送付を受けてから日附をさかのぼらせて受理印を押すようなことをしたとすればかかる処置が不適当であることはいうまでもない。)。この見地からすれば第三補充名簿登録者中後記認定の大枝みよら十六名を除くほかすべて所定登録期間中に登録申請をしたものと認められるのであつて、原告援用にかかる証人のうち秋山とみ子、葛田三郎、須貝昌子、千田辰男、菅谷和子、元川敬子、小林乙、萩原進、堀越寛之亟、堀越とし子、木村よね、岩浪清隆、高松宮子、説田当子、横田みつ子、大木芳子、佐野満江、岡田美照、佐藤チヨ、峯村利一、石毛美津恵、柳沢江、大野美子、島田栄の各証言によるとかえつて同人らの登録申請が期間内になされている事実が明らかで、原告の主張の根拠のうすいことを推測せしめるに十分である。成立に争いない乙第四号証の記載、証人松崎朝光、坂本栄、沼尻四郎の各証言によつても右認定をくつがえすことはできない。
ただし証人大枝みよ、大久保初子、田口節男、下条類子、大熊千以子、大津よし子、力野慧子、山崎ゆき、沼尻章、中村久子、村岡新五郎、村岡ふじ、河内芳子、沖山秀子、塚本清次、市川てい子の各証言によると、同人らはいずれも前記四月二十三日の登録申請期限後に申請書を提出したことを認めるに十分であつて、右申請による登録は補充選挙人名簿作成に関する法律に違背するものといわざるを得ない。
なお原告は第三補充名簿に登録のための申請中百二十名の申請書に日附なく内四名は申請人の押印なく、八名は拇印が押されていると主張し、被告は申請書中日附のないものが九十七名、押印のないものが四名拇印の押されているもの十三名あることは認めているところで、申請書受理について係りの職員に不行届きの点あるは見のがし得ないが、右のような不備があつても、だからといつて申請を無効ということはできない。なぜかならば日附の記載や押印のない登録申請書を無効とする規定はなく、これらが記載あるいは存在していなくても偽造文書でないかぎり登録申請の意思表示と認められるし、住所氏名その他市選管において定めた必要事項の記載(乙第三号証参照)があれば有権者の資格等を調査するになんら妨げはないからである。かような申請によつて選挙人名簿登録をしたからといつて選挙人名簿作成手続に違法があるということはできない。
また原告は名越とみ子ほか十五名の者は名簿作成期日まで引続き三ケ月以上土浦市に住所を有するとの要件を欠くと主張する。成立について争のない甲第七号証の一、二、三記載の者のうちその記載によると右の住所要件を欠くとみられる大野美子は、証人大野美子の証言によると、昭和三十年一月十九日から、同石毛美津恵は、証人石毛美津恵の証言によると、昭和三十年一月二十一日から、同大枝貞男は、証人大枝貞男の証言によると、昭和二十九年十二月五日から、土浦市に居住し、住所に関する要件を欠かないと認められる。しかし、同号証によると、名越とみ子、川村淳一、川村チヨ、大枝みよ、水島たけ、佐谷定吉、谷口清次郎、谷口光以、柳田喜美、佐野満江、坂本覚、石毛みつ江、桑原(旧姓小松崎)しづか、石川和夫、来栖久子は、同号証に転入の年月日として記載される日から土浦市に居住するものとして米の配給をうけるにいたつたことを認めるに十分であるから、特別の事情の認められない本件においては右の者らはその日から土浦市に住所を有するにいたつたのだとみるのほかはない。したがつて、右名越とみ子ら十五名は第三名簿に登録すべからざる者であるから(大枝みよは登録申請期限後の申請によること前段認定のとおりである)、これらを第三補充選挙人名簿に登録したことは違法といわなければならない。
要するに第三補充名簿に登載せられた者のうち前記期限後の申請者十六名と、住所の要件を欠く者十五名(うち一名は両方にかかる)に関するかぎりにおいて補充選挙人名簿作成に違法の点あるを否み得ず、この選挙人名簿を用いて施行された選挙は選挙の規定に違反するところあるといわなくてはならない。しかし、かりに、右の名簿に登載すべからざる人員の全部が投票したとしても、たかだか三十票の無効投票が生ずるだけであつて、成立に争のない甲第十二号証に徴すればこの違法によつて本件選挙の結果に異動をおよぼすおそれのないことは明白である。
結局本件各補充選挙人名簿の作成の違法を理由として選挙の無効宣言を求める原告の請求は理由なく棄却をまぬがれない。
よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 藤江忠二郎 谷口茂栄 満田文彦)